「これって不良品?」って思う前に読んでほしい、繊維のかたまり「ネップ」の話
リネン素材の洋服や小物をまじまじとみたときに、
生地の一部に糸の固まりのようなものを発見して
「これって不良品じゃないの?」「なんか嫌だな〜」って思ったことありませんか?
実は結構多くの人がこの経験をしていることなんです。それぐらい、よくある現象なんです。
でも、なんでよくある現象なのかというと、それは不良品でもなんでもない、リネンにとってはあたりまえのことだから。
今回は、ちょっと気になるリネン素材の繊維のかたまりについて教えます。
1.繊維のかたまりの正体は?
ちょっとした繊維のかたまりのことを、専門用語で「ネップ」といいます。
リネン生地でもよく、繊維が絡み合ってできた糸の節が生地の表面に出ることがあります。
繊維のかたまりがあるなんて、品質に問題があるんじゃないの?
そう思う人もいると思いますが、これはまったく問題ありません!
リネンは亜麻(フラックス)という茎の繊維から作られています。
畑で収穫された亜麻(フラックス)は、充分に乾燥させた後に束ねられ、加工場、紡績工場へと運ばれます。
そこで亜麻(フラックス)の茎をばらばらにして繊維状にし、その繊維を紡ぐことでやっと糸になります。
これ、さまざまな複雑な工程を経ることで、繊維はなるべく均一に揃えられて糸になります。
ところが!
条件が異なる植物繊維を均一な太さに揃えるというのは、容易なことではありません。
特にリネンはもともとが植物の茎の繊維ですからね。
その自然素材の性質上、均一に整った糸を紡ぐということがとても難しいんです。
リネン糸を織っていくと生地表面にぽっこりしたネップができてしまうのは、繊維構造の特徴からしてもあたりまえのこと。
つまり、リネン生地にネップがあるのは、むしろ天然の植物素材からつくられている証であるともいえます。
ちなみにリネンだけではなく、綿花からつくられるコットンも、羊毛からつくられるウールなどもネップができることがあります。
そしてネップがあることで生地がほつれやすくなるということはありませんのでご安心ください!
2.ネップに出会えたらラッキー?
複雑な工程を経て、亜麻(フラックス)の茎は繊維状になり、糸へと成形されます。
その糸で生地を織る際にネップが生じてしまうのは、糸一本一本の太さに個性があるからなんです。
布ってあたりまえですけど、縦の糸と横の糸でできていますよね。
では改めて、その糸に思いを馳せてみましょう。……縦の糸はあなた、横の糸は私((C)中島みゆき)。
あなたと私がそれぞれ別の人間で外見も内面も違うように、リネンの糸ひとつにしても、もちろん個性があるんです。
さまざまな太さの糸で作られるリネン生地に偶然生まれるネップは、まさにリネンが持つ個性。
リネン生地はむしろネップがあることにより、表情豊かなものになるんです。
ネップや繊維の出方には個体差がもちろんあって、それも全部同じではありません。
もしあなたが着ているリネンの服やリネンの雑貨にネップを発見したら、
それはきっと、ほかのだれのものとも違う、あなただけのリネンと出会えたということなんです。
そのネップがあるからこそ、リネンは素朴で優しい風合いがでるんです。
3.あえてネップを取り入れたアイテムもある?
本来なら生地の欠点になってしまうネップですが、実は昔からファッションの一部として取り入られています。
ネップがむしろ味を出すためのおしゃれな要素としてポジティブに捉えられているんです。
たとえば高級テーラーでも、あえてネップ入りのツイードジャケットなどを扱っていたりします。
その場合はわざわざ小さなつぶ粒や節をところどころに入れた加工糸を使っている場合が多いですが、
そのネップがいい味を出しているんですよね。
ネップがを入れることで表面に凹凸のある生地感がでてくるので、ナチュラルで温かみがあり、
少しカジュアルな雰囲気に仕上がるんです。素朴の風合いがもう、たまりません!
あれを着ている人を見ると、カジュアルにジャケットを着こなしておしゃれだな〜と思ってしまいます。
ほかにも秋冬のアイテムで、
「カラーネップニット」「カラーネップスウェット」「ネップソックス」などのアイテムを見かけたことはないですか?
表面に赤、青、黄色などのカラフルな斑点が散りばめられていたりするやつです。ネップって温かみがあってかわいいんですよね。
4.ネップのあるリネンとないリネン、どっちがいい?
個性のある糸で織られたからこそ生じるネップ。
糸にはそれぞれ個性があるのに、それで織られた布がただの無個性で均一的な生地だったとしたら……どう思いますか?
では人で想像してみてください。個性豊かなたくさんの子どもたちが、
全員同じ顔で、無個性で均一的で社会が求める「ふつう」の人間になってしまったら、どう思いますか?
それよりも一人ひとりの子どもが個性に応じ、最大限自分の能力を引き出せたほうがよくないですか?
リネンだってそうだと思うんです。
どうですか? ネップって厄介なものではないんです。むしろ、愛せるやつなんです。
だからこそ、そんなネップとの出会いも楽しんでいただきたいと思っています。あなただけのネップに出会えますように。
5.今回のまとめ
・繊維のかたまり「ネップ」があるのは自然素材の証
・リネン生地のネップはリネンの糸本来の個性
・ネップはファッションとしても注目されている
・ネップとの素敵な出会いを楽しんで
文・綿貫大介 写真・綿貫陽介