リネン素材の原料となるのは、亜麻(フラックス)という植物です。
古代から栽培されているこの植物ですが、実際に育っているところってなかなか見たことがないですよね。
亜麻(フラックス)ってどんな植物で、どのように栽培されているんでしょうか。
これを知ったらもっとリネンが好きになる!
約1万年の歴史がある亜麻(フラックス)の栽培。
人類がはじめて栽培した植物のひとつと言われているくらい、ずっと人間の生活を支えてきた植物です。
亜麻(フラックス)は紀元前8000年~7000年ころには現在のトルコやシリアを中心とした地域で、紀元前5000年~2000年にはエジプトでも栽培されるようになりました。
その後は世界各地で栽培されるようになり、現在の収穫高は
1位 フランス
2位 ベルギー
3位 ベラルーシ
4位 ロシア
5位 中国
以下、イギリス、オランダ、エジプト、チリ…
となっています。
パリにあるヨーロッパリネン連盟によると調査によると、現在世界のリネン生産高はヨーロッパが90%以上を占めています。その中でもフランスが約80%、次いでベルギーが約15%。
なかでも有名なのは、良質なリネン生産地が集中している「フランダース(フランドル)地方」フランス北部からベルギー西部、オランダ南部まで3つの国境を越えたこの一帯は、リネン栽培に適した涼しい気候と、川の流れる自然環境でつながっています。
自然に国境はないので「フランス産」「ベルギー産」と別れていても、この地域のリネンは同じ風土で育った良質なリネンです。
ちなみにリネン製品の原産国表記に「中国」と書かれているものをみるケースも多いかと思いますが、それはリネンの紡績工場が中国に集中している要因もあります。
フランスやベルギー産のフラックス原料を使用しているけど、そのあと中国で紡績した糸で製品化したリネン製品というパターンも多いです。
では亜麻の畑の様子をみてみましょう。
繊維をとるために植えられる亜麻(フラックス)は、北部ヨーロッパなどの寒冷な地方で栽培することができる一年草です。
春になると種をまき、そこから2か月半で高さが1メートルほどにもなる、とても生育のいい植物なんです。涼しい土地で、短期間で勢いよく育つので、農薬もほとんど使用する必要がありません。除草剤や化学肥料などの力を借りることなく、ぐんぐん育ちます。
つまり、人体にとっても安全で、土壌を荒らすこともない、地球環境にやさしい、エコな植物なんです。
ただ、生育が早いということは、土壌の肥料分を多く消耗します。そのため、亜麻(フラックス)栽培は輪作で行われます。
亜麻(フラックス)は一回収穫すると土壌が痩せてしまうため、収穫量や品質を保つために最低5年は同じ畑に亜麻(フラックス)を植えません。
その間は大麦、小麦のほか、マメ科の植物やじゃがいも、チコリなどを育て、輪作を行います。輪作とは農業の手法のひとつで、同じ土地に別の農作物を何年かに一回のサイクルで作っていく方法です。栽培する作物を周期的に変えることで、土壌の栄養バランスが取れ、収穫量・品質が向上するんです。
つまり常に良質なリネンを仕入れるためには、輪作年数を考慮した(だいたい6〜7年周期)広大な農地が必要になっていきます。
そんなわけで亜麻(フラックス)畑の隣には、かならず別の作物が育っています。
亜麻(フラックス)から繊維をとるのがどんなに大変かお分かりいただけたでしょうか……。これがリネンが貴重で高価な繊維である背景のひとつです。
さらに亜麻(フラックス)は年々栽培面積が少なくなってきています……。
そんな亜麻(フラックス)、毎年6月頃にかわいい花を畑いっぱいに咲かせます。
実はこの開花している姿は、滅多にお目にかかれないんです。
なんでって、花の開花時期は一年でたった一週間程度。しかも朝方に花が咲き、夕方にはしぼんでしまうんです。フラックスの花の独特な青色をしており、現地では「フラックスブルー」と表現されているそうです。
5枚の花びらと、五角形のおしべとめしべ。よくよくみると均等が取れていて、小さな花からは数学的な美しささえ感じますね。波打つように風にゆれる亜麻(フラックス)畑、実際見たら圧巻なんでしょうね。
日本では北海道の一部で栽培されていて、現在は町おこしとして栽培されています。
近年はアマニ油など、亜麻(フラックス)の種子がスーパーフードとして人気が出ている背景もあり、再び亜麻(フラックス)が注目されているんです。
風が吹いても折れることなく、柔らかく受け流す姿はまるで、ジブリアニメに出てくる草原のような美しさなのではと勝手に想像してしまいます。強くしなやかな亜麻(フラックス)。そこから丈夫な繊維がとれるのもうなずけます。
文・綿貫大介 写真・Pixabay