ヒロインの行動力が男性を上回ったり、
ヒロインの強さや聡明さが男性を変えていくといった、
次世代の女性像を体現したヒロインにも
注目が集まる近年のディズニープリンセス。
そこには女性の生き方が時代によって
大きく変わってきたことが見て取れます。
ヒロインを知ることは、歴史を知ることです。
たくさんの素敵な作品がありますが、
今回は『眠れる森の美女』に注目させてください!
この物語、実はリネンと関係あるって知っていました?
そこには描かれた時代背景の影響がありました。
輝く金髪、バラのように赤いくちびるを持つ美しい
ディズニープリンセス・オーロラ姫といえば、ご存知『眠れる森の美女』ですよね。
この作品は悪役ながら荘厳さと魅力のあるキャラクターを軸に
『マレフィセント』という魔女視点の実写作品も公開されていたので、
知名度が高い作品だと思います。
実はこの物語の重要シーンのひとつに、
リネンが関係しているって知っていましたか?
ではちょっとあらすじを。
ヨーロッパのとある国に待望のお姫様が生まれました。その名はオーロラ。(ここからちょっと早送り……)どこからともなく、悪い魔女であるマレフィセントが現れます。そしてオーロラに「16歳の誕生日の日没までに糸車で指を刺して死ぬ」という恐ろしい呪いをかけて去っていきます。
恐ろしい魔女に呪いをかけられてしまったことから、オーロラの父ステファン王は呪いが実行されないように、国中の糸車を集め焼いてしまいます。しかし、呪いの通り糸車の針に指をさしてしまったオーロラ姫は、とうとう永遠の眠りについてしまったのでした……。
ここから先はもちろんハッピーエンドへの展開がちゃんとあるのですが、割愛します。
なんども出てきましたよね、「糸車」。そう、
この物語の重要なアイテムは糸車なんです。
糸車は、リネンの原料である糸を植物の亜麻から紡ぐための
大事なアイテムです。
『眠れる森の美女』は「いばら姫」というお話をモチーフにつくれています。
「いばら姫」はヨーロッパの古い民話として伝えられ、多くの人が童話に取りあげているほか、さまざまな類話も存在します。
日本では、19世紀にドイツのグリム兄弟が編纂した『グリム童話』の内容がもっとも有名ですよね。
グリム童話では、「王女が15歳になったら、紡ぎ車の針が指に刺さって死ぬ」という内容になっています。
グリム童話よりさらに昔、17世紀に活躍したフランスの詩人、シャルル・ペローの童話集にも「いばら姫」は収録されています。
そして「いばら姫」の原作はさらにその昔、イタリアの詩人ジャンバティスタ・バジーレがまとめた説話集『ペンタメローネ』だといわれています。そのなかの一遍、「太陽と月とターリア」というお話です。
あらすじはというと……
ある国にターリアという王女が生まれ、その誕生を祝うパーティが開かれていました。パーティーに出席していた預言者が、「亜麻によってターリアに災いが起きる」と予言をします。
王様は亜麻や大麻を屋敷の中においてはならないと命じていたのですが、大きくなったターリアはあるとき、糸を紡ぎながら歩いてくるおばあさんを見つけます。興味を持ったターリアはおばあさんに糸巻き棒を借りて亜麻からリネンの糸を紡ぎ始めると、リネンの糸に混じっていたトゲが爪の下に刺さり、予言通りに倒れてしまうんです。
亜麻とリネンというものが当時の人たちにとっては
物語のカギになるほど重要であったことがよくわかります。
でも王女が糸を紡ぐというのは、ちょっと違和感がありますよね。
いやいや、そんなことないんです。
実際、フランク王国(今のフランスあたりの位置)のシャルル王は「王女を含めたすべての女性は、糸紡ぎと機織りの技術を習得せよ」というおふれを出していたのだそうです。
亜麻の糸紡ぎは、身分の高い低いに関係なく、すべての女性の大切な努めだったんですね。
糸紡ぎなどの手仕事は、歴史をみても長きに渡って実際に女性の日常労働の一部、あるいはかなりの部分を占める重要な要素だったと思います。
ヨーロッパでは近世まで、女性の美徳を象徴する手仕事として、糸紡ぎが繰り返し説かれ推奨されていました。
さらに古くヨーロッパ文化の起源を遡ってみてみると、ギリシャ神話の時代から糸紡ぎと機織りは女性の手仕事の典型とみなされています。
今となってはそんなの信じられませんよね。
ときにはふいに短く途切れ、ときには思いのほか長く撚りあげられるリネンの紡ぎ糸。そこに自分の人生を重ね合わせる女性も当時は多かったのではないでしょうか。
そして王女が亜麻によって倒れるという話の創作のもとになったのは、もしかしたら女性たちの労働に対する危惧などが込められていたのかもしれません。
文・綿貫大介 写真・Pixabay Photolibrary