毛羽立ちが少なく、しなやかな風合いのリネン糸。
前回、亜麻(フラックス)という植物がリネン糸の原材料だという話をしましたが、原料の生育はもちろん、その加工方法ひとつにしても、できあがる糸の品質に大きく影響を与えています。
今回は、リネン糸ができあがるまでの工程をフィーチャーしてお届けします!
花の季節が終わり、葉が落ちはじめ茎が成熟したころに、亜麻(フラックス)は収穫されます。
亜麻(フラックス)の茎の部分が、にリネンで紡績される糸の原材料です。
畑で栽培された亜麻(フラックス)は、根本から刈り取るように収穫されると、約1か月ほど地面に寝かせ、太陽や雨風にさらします。
そして土壌のバクテリアなどの力を借りて熟成させていきます。これは、レッティングという作業工程のひとつ。
レッティングとは、茎の繊維周辺のたんぱく質を腐らせて、繊維以外の部分を取り除きやすくする作業のこと。
繊維を柔らかくほぐしてあげるためにはとても重要な工程です。このように自然の力でレッティングを行う方法を今でも用いている地方はたくさんあります。
自然の力って偉大ですよね。そしてこれ、とっても環境に優しい方法ですよね。
リネンの産地で有名なフランダース地方などではかつては川などに直接、亜麻(フラックス)を浸けて繊維を取り出す「ウォーターレッティング」が行われていました。
レイエ川は特に有名で、リネンの美しい色から「Golden river」とも呼ばれていたんだとか。でも、今は川の水質汚染の問題で禁止されています。
現代行われている、自然に腐らせる方法はたしかに合理的ですよね。「ウォーターレッティング」に対してこの自然の方法は「デューレッティング」と言われています。
レッティングが済んで乾燥させた束は、スカッチングという工程に進みます。
束を叩くことで、繊維以外の茎の不要な部分を落としていく作業です。
スカッチングされた原料は、そのまま紡績されることもあります。
この場合、殻などもたくさんまだ残っている状態なので、とても太くて粗い糸ができあがります。これはこれで素朴で丈夫なリネンになるのですが、たいていは次の工程に進みます。
次はスカッチングによって叩かれた束から、芯や殻の硬い部分を取り除くハックリングという工程。
金属でできた硬い剣山のようなブラシに束を引っ掛けて梳かしていきます。
何度もハックリングを繰り返すことで、繊維はどんどんしなやかで柔らかく、光沢を生んでいくんです。これにより短く太い繊維は取り除かれ、長い繊維だけが残っていきます。
実は亜麻(フラックス)の束の中には、繊維の長い部分と短い部分が混在しています。
長い繊維は、細い糸に紡績され、柔らかく繊細な仕上がりになるんです。
みなさんがイメージする肌触りのいい上質なリネン100%の製品はたいていこの長くしなやかな繊維が使われていて、これらは「一等亜麻」とも呼ばれています。
でも取り除かれた「二等亜麻」にあたる短い繊維も無駄にはなりません。
丈夫な太い糸に紡績されたり、繊維の長さが同じコットンとの混紡にまわされて、リネンコットンとして生まれ変わったりしています。
野性的でムラ感が強いということを麻も魅力として感じている方も多いので、こちらもとても需要があるんです。
こちらの動画はリネンの紡績の様子ですが、7分55秒あたりから見てください、糸からなにか滴り落ちています。男性が機会のふたを開けると水蒸気が。これは一体どういうことなのか。
レッティング、スカッチング、ハックリングの3つの工程はリネン紡績独特の重要な工程でした。ここまで加工できたら、あとは紡績工場へ運ばれてきれいに糸の形に仕上げていきます。
その後は、実は先ほどの動画でご覧いただいた通り、リネンは紡績方法も特殊で、できあがった繊維を引き伸ばしたり撚ったりした祖糸を精紡する工程で『水』を使うんです。だから、糸から水滴がおちていたのですね。
ウールやコットンはわざわざ水に浸すことなく紡績できるんですが、リネンは祖糸を水でびしょびしょに濡らしながら紡績します。
これはウエットスピニングといいます。
亜麻(フラックス)にはペクチンという糊のような成分が含まれていて、水に濡れるとふやけて柔らかくなり、乾燥すると硬くなる性質があるんです。
つまり、ペクチンを溶かすことで糸の強度やハリ、コシの強さを出せるし、毛羽立ちを抑えられる! これ、リネンをつくる上でとても理にかなった紡績方法なんです。
リネン糸一本ができるまでに、こんなに計算され尽くした工程がたくさんあるなんて……。
ちゃんと素材の特徴を生かした方法を行っているからこそ、品質の良い糸ができあがるんですね。納得!
文・綿貫大介 写真・Pixabay wikipedia 笠原里紗